アート・デザイン表現学科 ファッション表現領域 Field of Fashion and Textile

「無題」

吉田綾子

2006年

「性」を決定させるX染色体とY染色体は５億年前は同じものであった。このことから「性」は生命のたどってきた記憶であり、生命そのものであるといえる。６０兆個もの細胞からなる身体の、一つ一つの細胞に「性」は受け継がれてゆく。「性」とは膨大な記憶であり、一つの記憶であると言えるのではないだろうか。これらの一つの大きさは１６０×１００(cm)であり、これは人間の皮膚とほぼ同じ面積である。間近で見た時のたくさんの編目と、遠目の時の一本の筒という印象は、生物と同じであり、また膨大な記憶の集合を意味している。そしてこの筒は一本のひもをひっかけて作られている。数本から編まれたのではない。ひもの素材には人間の皮膚に一番近い成分のシルクの、きびそを使っている。シルクのセリシンという成分が膨大な数の繊維をまとめて一本のひもを作り出しているのだ。人が触れ、形を変形させてゆく事、光と酸素によって変色してゆくことで、筒に新たな記憶が宿ってゆく。