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平成24年度パリ賞受賞の井上織衣さんにパリでの暮らしを紹介していただきます。
先週末、ブルターニュ地方のLannion(ランニオン)
5月に電車内で知り合った芸術哲学者のMuriel(ミュリエル)が
なんと、ぜひうちにおいでと招待をしてくれたのです。
アーティストのHannaと一緒にパリから電車で4時間、
途中に雨をとおりぬけて到着いたしました。
7歳の息子、Milliau(ミリオ)と手をつないでMurielが待っていました。
会うのが二度目とは思えないほど、親しみを感じます。
この日は残念ながらカメラを忘れてしまったため、写真提供はHanna。
Granit rose(グラニ・ローズ)という、バラ色の花崗岩でできた石を
拾いながら歩きました、Côte de Granit rose(コート・ドゥ・グラニ・ローズ)と呼ばれる海岸。
バラ色の大きな岩が幾重にもかさなり合い、極めて大規模な彫刻を成しており、
そのバランスとかたちに圧倒されました。
自然がつくりだす芸術の神々しさに、一瞬で言葉を失いました。
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お家に到着すると、そのすべてをパートナーのLawrence(ロランス)が
作ったというので、思わずため息が出ました。
木造で吹き抜けのひろがりが快適。すばらしいです。
そして4歳の弟、Liam(リアム)にも会いました。
ふたりともすこし恥ずかしがり屋でかわいい男の子。
夜にいただいたガレットとシードルとクレープはとてもおいしく、
食後にハーブティーを飲みながら、アートや作品などについて語りました。
次の日の朝、遅く起きたらすでにHannaは食卓に。
Murielの哲学のこと、日本の大地震のこと、いろいろな話をしました。
そしてこどもたちと歩いて海岸へ。こどもたちは自転車に乗って。
枯れたすみれの花を手にとり「夏はすべてが紫色に染まるのをイメージして。美しいでしょう?
これはdoigts de sorcières(魔女の指)という名の植物よ」とMuriel。
緑の芝の大きな坂をみんなで駆け下りた先には海。
海、山、牛と馬とかもめ、風と光。
すべてがとても美しく、涙しそうになりました。
家に持ち帰った植物でちいさな作品をつくったり、
おりがみを一緒に、たのしそうなこどもたち。
太陽の光が、濡れた芝生を美しく光らせるおだやかな午後。
アーティストの友達とそのこどものTinoue(ティノー)も加わり、
みんなで山の中の教会へ。
Tinoueはまだ2歳半なのにきたない言葉を話すやんちゃな男の子。
4歳のLiamは「これはぼくの作品につかう!これも!これも!」と
落ち葉や木の実をや枝をちいさな手にいっぱいにして山を登ります。
教会の天井は船の底の素材でできておりました。教会から出て歩いていると、
Liamがぎゅっとわたしに抱きついてきて手をつないできました。
とてもあたたかな気持ちになりました。
言葉よりも何よりもうれしい瞬間でした。
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その後、アーティストのお家でケーキをいただき、しばし休憩。
そしてあっという間に時は過ぎ、お別れの時。
Muriel家族が車で駅まで送ってくれ、こどもたちにキスをすると
彼らはブルトン語でKenavo!(
わたしの心は何重にも厚く、広く、あたたかくなった気がしました。
ありがとう、さようなら。また会おうね。
井上 織衣
Orie Inoue
2008年女子美術大学大学院修了。ファッション造形学科専任助手を務めた後、インスタレーション・イラスト・アニメーションなどの様々な媒体を通したアーティスト活動を行う。
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